業務効率化や売上拡大を目指す中小企業にとって、SaaSの導入は欠かせない選択肢となっています。しかし、初期投資やランニングコストに悩む経営者は少なくありません。
そこで、国や自治体が実施する補助金制度を活用すれば、負担を大幅に軽減しつつ最新のSaaSを導入可能です。本記事では、制度の概要から申請の流れ、成功事例、選び方のポイントまでわかりやすく紹介します。
SaaS導入に使える補助金とは

SaaSを活用した業務効率化を進めるうえで、補助金制度の利用は費用面での負担を大幅に軽減する手段になります。各制度には特徴があり、対象となる事業内容や条件も異なるため、目的に応じた選択が重要です。ここでは、代表的な補助金制度を詳しく紹介します。
事業環境変化に対応した経営基盤強化事業(一般コース)
経営環境の変化に柔軟に対応するために設けられた制度が「事業環境変化に対応した経営基盤強化事業(一般コース)」です。設備投資や業務改善のためのシステム導入にかかる費用が助成されるため、SaaSの導入も支援対象に含まれます。
助成上限は中小企業の規模に応じて最大800万円まで設定されており、助成率は5分の4以内です。
中小企業省力化投資補助金
省人化や省力化に資する投資を支援する目的で設けられているのが「中小企業省力化投資補助金」です。とくに人手不足が課題となっている業種での活用が想定され、自社独自のSaaSによる業務効率化や自動化も支援対象となります。
クラウド型の在庫管理や勤怠管理システムなど、現場の負担軽減につながるツールの開発が補助される点が特徴です。補助額や補助率は公募回ごとに異なるため、最新の募集要項を確認することが重要になります。
申請には現状分析や課題の明確化が必要であり、導入によってどの業務が効率化され、どの程度負担が軽減されるのかを定量的に示す工夫が有効です。具体的な成果をイメージしながら計画を練るとよいでしょう。
ものづくり補助金
新製品開発や業務プロセス改善といった付加価値向上を目的に活用できるのが「ものづくり補助金」です。従来は製造業向けの設備投資が中心でしたが、最近ではSaaSを含むITシステムの開発と導入による業務効率化も対象になっています。
とくに、生産性向上を目指す取り組みが重視されており、導入後の具体的な成果指標を計画に盛り込む必要があります。補助上限は1,250万円、補助率は中小企業の場合で最大2/3となっており、採択されると高額な支援が期待できるでしょう。
導入による売上増加やコスト削減の見込みを具体的に示し、説得力のある申請書を作成することが大切です。
新事業進出補助金
既存事業とは異なる新市場や高付加価値事業への進出を支援するのが「新事業進出補助金」です。SaaS導入による新たな事業モデルの構築や、サービスの高度化にも利用されています。
従業員規模に応じて最大9,000万円まで支援される仕組みで、補助率は1/2です。申請には、新規事業進出の定義に合致する計画であることに加え、付加価値額や賃上げに関する数値目標を設定する必要があります。
達成が難しい目標を掲げると返還義務が発生するリスクがあるため、慎重に数値を設定する姿勢が求められます。市場調査や現状分析を十分に行い、実現可能性の高い計画を作成することが重要です。
IT導入補助金
もっとも認知度が高く、幅広い業種で活用されているのがIT導入補助金です。デジタル化や業務効率化を目的に、SaaSをはじめとするクラウドサービスの導入が支援されます。申請時には、IT導入支援事業者と連携し、登録されたツールの中から選ぶ必要があります。補助上限は450万円、補助率は通常枠で1/2、デジタル化基盤導入枠で最大3/4が支援されるのです。
中小企業の経理や顧客管理、労務管理といった日常業務に直結するSaaSが対象であり、比較的取り組みやすい制度です。募集回ごとに公募スケジュールが決まっているため、早めに準備を進めると余裕を持って申請できます。制度の特性を理解して計画的に進める姿勢が大切です。
SaaS導入で補助金を活用する申請ステップ

SaaS導入時に補助金を申請するには、事前の準備や申請後の対応まで一連の流れを理解して進めることが重要です。各ステップを把握することで余裕を持って準備ができ、採択の可能性を高めることにもつながります。ここでは準備から報告までの具体的な手順を紹介します。
申請に必要な書類と事前準備
補助金申請を進める際には、まず必要書類の準備が欠かせません。代表的なものとして、事業計画書、決算書、従業員数や業種を証明する書類が求められます。さらに、gBizIDやSECURITY ACTIONの登録が必須となる場合が多く、これらの取得には数日から一週間程度の時間が必要です。
事業計画書には、自社の課題と導入するSaaSの効果を具体的に記載し、数値目標や改善効果も明確にすることが推奨されます。提出書類の不備や情報不足は審査に不利となるため、公式ガイドラインを熟読しながら進めると安心です。
必要な書類を早い段階で整えておくことで、締め切り間際に慌てず対応できる環境が整います。準備段階で計画を深めることで、採択後の成果にも直結します。
IT導入支援事業者との連携方法
補助金申請を成功させるためには、IT導入支援事業者との連携が必要です。支援事業者は、制度に登録された専門パートナーであり、申請者に代わって書類作成や必要な手続きを進めてくれます。公式サイトには事業者の一覧が掲載されているため、実績や対応可能な分野、相談のしやすさを比較しながら自社に合うパートナーを選ぶとよいでしょう。
信頼できる事業者を見つけることで、書類の精度が上がり、申請の負担も大幅に軽減されます。連携の際には、事業計画や目標の共有を事前に行い、認識を一致させることが重要です。サポートを受けながら準備を進めることで、申請プロセス全体がスムーズに進行します。適切なパートナー選びは、採択率向上の重要なポイントです。
公募スケジュールと申請の流れ
補助金制度には、公募期間が明確に設定されています。募集要項に記載された締め切りを確認し、余裕を持って準備を進める姿勢が求められます。申請の基本的な流れは、支援事業者の選定、事業計画書などの書類作成、オンライン申請という順序です。
申請後は審査が行われ、結果は数週間以内に専用ページやメールで通知されます。公募締め切りが近づくと申請が集中し、手続きが混み合うこともあるため、できるだけ早めに提出を済ませると安心です。
スケジュールをしっかり管理することで、計画通りに進められ、不要なトラブルも防げます。準備不足や提出遅れを避けるためには、早い段階で行動を開始することが大切です。
採択後に必要な実績報告の進め方
採択が決定した後も、実績報告が必要になります。報告は、補助金が適正に使用されたことを証明するために不可欠です。提出する書類には、領収書や契約書、SaaS導入後の業務改善を示す具体的な数値や成果レポートが含まれます。
提出期限が決まっており、遅れると補助金の支払いが滞る可能性があるため、計画的に準備しておくことが重要です。制度によっては、導入後一定期間が経過した後に効果測定の報告が求められる場合もあります。
導入後は日々の成果を記録し、必要なデータを整理しておくと報告がスムーズに進みます。報告内容が経営の見直しにも役立つため、今後の事業計画にも活かしていきましょう。
補助金申請で注意すべきポイント

補助金を活用する際は、制度のルールをしっかり理解して申請を進める必要があります。適切な手順を踏まなければ不採択や返還義務の発生につながることもあるので、注意が必要です。ここでは申請時にとくに気を付けたいポイントを紹介します。
不正受給と見なされるケース
補助金の申請において最も避けたいのが、不正受給と判断されるケースです。申請内容に虚偽が含まれていたり、対象外の経費を計上したりすると不正と見なされる可能性があります。たとえば、補助対象外のサービスや機材の費用を含めて申請した場合や、実際には利用していないSaaSを導入したと偽る行為などが該当します。
不正受給が発覚すると補助金の全額返還や今後の制度利用の制限など、厳しい措置が取られるので、注意が必要です。事業計画や支出内容は正確に記載し、見積書や契約書の内容を申請書と一致させることが大切です。法令を遵守し、正しい手続きで申請を進めましょう。
補助対象外となるSaaSやサービスの例
すべてのSaaSが補助対象になるわけではなく、対象外のサービスも存在します。業務改善に直接結びつかないエンターテイメント系のアプリや、汎用的で無料で提供されているソフトウェアなどは補助対象外とされているのです。
また、クラウドストレージなども用途や契約形態によって対象外になるケースがあります。補助金制度の公式サイトには、対象となるITツールやサービスのリストが公開されているため、申請前に必ず確認しましょう。
対象外のサービスを申請すると、不採択や差し戻しにつながり、申請全体が無駄になる可能性もあります。事前の調査を怠らず、確認した上で進める姿勢が求められます。
専門家に相談する重要性
補助金申請は、制度や要件が複雑で専門的な知識が求められる場面も多くあります。したがって、専門家に相談しながら進めることが推奨されます。IT導入支援事業者や中小企業診断士など、申請実務に精通した専門家と連携すれば、書類の精度が高まり、審査での評価も得やすくなるでしょう。
とくに、自社に適した制度の選び方や、採択されやすい事業計画の立て方などは専門家のアドバイスが役立ちます。相談を通じて、誤りや見落としを防ぎ、安心して申請を進められる環境を整えましょう。適切なサポートを受けながら進めることで、成功の可能性が高まります。
予算上限に達するリスクと対策
補助金制度には年度ごとの予算が設定されており、申請が殺到すると予算上限に達してしまう場合があります。上限に達した場合、要件を満たしていても不採択となる可能性が高まります。リスクを避けるためには、できるだけ早いタイミングで申請することが重要です。
募集開始から間もない時期に準備を進め、提出を完了することで、予算が残っているうちに審査を受けることができます。さらに、予備の申請プランを用意しておくと、万が一の際にも柔軟に対応可能です。早期着手を意識し、スケジュールに余裕を持った計画を心がけましょう。採択につながる大きな要素になります。
補助金を活用したSaaS導入の成功事例

中小IT企業の株式会社ナレローは、東京都「事業環境変化に対応した経営基盤強化事業」の補助金を活用し、従来はPCインストール型だった学習ソフト「ナレロー」をクラウド(PaaS上)へ刷新しました。
補助金により教職員が学生の学習ログを一括管理できるダッシュボードや、学習意欲を高めるランキング機能を短期間で実装したのです。結果として下記を同時に実現しました。
- 反転授業への対応
- アップデート即時配信
- 海外ユーザーへの提供
自社に合うSaaSを選ぶためのポイント

補助金を活用してSaaSを導入する場合、自社の課題や目的に合ったサービスを選ぶことが重要です。間違った選定は成果が出ない原因となるため、慎重に検討する必要があります。ここでは選定のポイントを具体的に解説します。
補助金対象のサービスから候補を絞る
まず、補助金申請時に選べるSaaSは、制度側で登録されているものに限られるため、対象外のサービスを選ぶと申請が通りません。公式サイトには対象となるITツールの一覧が掲載されており、分野ごとに登録されたサービスが確認できます。業務改善に直結するサービスを選びつつ、登録リストの中から候補を絞ることが大切です。
対象外のサービスと誤って契約してしまうと無駄なコストが発生するため、事前に確認しておくと安心です。候補をリストアップする段階から、補助金の条件を満たしているかどうかを見極める習慣が重要になります。選定の段階で時間をかけることで、失敗のリスクを減らせるでしょう。
導入目的を明確にして機能を見極める
SaaSを導入する際に、導入の目的が不明確なまま進めると、結果として期待した効果が得られないことが多いです。どの業務を効率化したいのか、どの指標を改善したいのかを明確にしておくと、必要な機能が見えてきます。
たとえば、顧客管理を改善したい場合はCRM機能の充実度を重視し、経理効率化が目的なら会計SaaSが適しています。導入後に使わない機能ばかりのサービスを選ばないよう、目的に応じて優先順位をつけると選びやすくなるでしょう。
目的の設定が甘いと費用対効果が下がるリスクがあるため、事前に現場の課題をヒアリングして整理しておくと効果的です。導入目的を絞り込む姿勢が求められます。
コストと補助率のバランスを考える
補助金を利用すれば費用の半額以上が支援される場合もありますが、それでも自己負担が残るのが一般的です。したがって、サービスの料金体系と補助率のバランスを見ながら選ぶ必要があります。高額で多機能なサービスは魅力的に見えますが、実際の利用頻度や規模に見合っていなければコストの無駄になるリスクがあります。
補助率を最大限活用しつつも、自社の予算と運用可能な範囲を超えないよう注意しましょう。導入前に月額料金、初期設定費用、オプション料金まで含めて試算し、長期的な維持費も考慮したうえで検討すると失敗を防ぎやすくなります。現実的な予算計画が重要です。
将来の拡張性やサポート体制を確認する
SaaSは導入して終わりではなく、運用していく中で課題やニーズが変化していくこともあります。将来的に機能追加や他システムとの連携が可能かどうか、サービスの拡張性を事前に確認することが重要です。
さらに、トラブルが発生した際に迅速に対応してくれるサポート体制が整っているかも選定基準の一つです。とくに24時間対応や専任担当がつくサービスは安心感があります。
拡張性が低かったり、サポートが不十分だと、運用中に新たな課題が発生しやすくなります。長く使い続ける前提で選ぶ姿勢が、無駄のない導入につながります。運用後まで見据えて判断する視点が必要です。
無料トライアルや事例で適性を確認する
最後に、無料トライアルや既存の導入事例を確認し、自社に適しているか検証する作業が重要です。多くのSaaSは無料期間を設けており、実際の業務に組み込んでみることで使いやすさや効果を確認できます。現場での操作感や担当者の意見を集めながら評価することで、導入後のトラブルを減らすことが可能です。
さらに、同業種での導入事例を参考にすることで、自社との親和性が判断しやすくなります。机上の比較だけではわからない点が見えてくるため、時間をかけてテストする価値があります。検証を怠らない姿勢が、納得のいく導入につながるでしょう。
まとめ
SaaS導入を進めるにあたっては、補助金制度を正しく理解し、計画的に活用することが成果につながります。制度の仕組みや申請の流れを把握し、自社の目的に合ったSaaSを選定することで、業務効率化や売上拡大が実現しやすくなります。成功事例からも分かる通り、準備と検証を重ねる姿勢が重要です。経営基盤を強化しながら、より高い価値を提供できる企業づくりを目指してみませんか。
株式会社イチドキリでは、システム開発やIT・AI領域の企業様に向けて、補助金を活用した業務提携支援を行っています。提案力の強化や受注率向上、売上アップに貢献できるパートナーシップをご提案します。商談数や成約率を伸ばし、差別化を図りたい方はぜひお問い合わせください。
参考:SaaS業界のM&Aの動向について!市場動向や売却のメリット・デメリットを解説|M&Aナビ
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記事の執筆者
株式会社イチドキリ 代表取締役
徳永 崇志
兵庫県の実家で、競走馬関連事業を展開する中小企業を営む家庭環境で育つ。
岡山大学を卒業後、大手SIerでエンジニアを経験し、その後株式会社リクルート法人営業に携わる。株式会社レアジョブではAIを用いた新規事業の立ち上げに従事し、リリース1年で国内受験者数No.1のテストに導く。株式会社素材図書で役員を務めた後、株式会社イチドキリを設立。中小企業向けに、補助金獲得サポートや新規事業開発や経営企画のサポートをしている。Google認定資格「Google AI Essentials」を2024年に取得済。